学園長 訓話



 おはようございます。新学期の始まりにあたり、今年の目標は、「挨拶をしよう」ということと、「身だしなみを整えよう」という、この2つにしたいと思っています。なんだそんなことなのかと思う人もいると思いますが、この2つを目標に選んだ理由を説明したいと思います。

 ある生物学者の研究を聞いた経営者から聞いた話ですが、ジャングルの中で、サルはどういう行動をするか。ジャングルの中でサルが違うサルに出会ったときにどうするか。サルは、いきなり噛みつきはしません。石をとって投げることもしません。サルは違うサルに出会った瞬間に何をするか。声を出すんです。どうして声を出すのかといったら、その声によって出会ったサル同士はお互いが味方なのか、お互いが敵なのかを確認します。敵であるというキーという音を出すとサルはどうするか。寄っていって、ポカっと殴ってあっちいけという。それから、相手が自分よりもはるかに大きくてとても勝てないと思ったら、キーという音を聞いた瞬間にサルは逃げるんです。このままいたら自分の身が危ない。逆に、キーではなくて、私はサル語が喋れないからよく分からないけれど、味方だというシグナル、その声を出すと、お互いに寄っていってサル同士はサルの会話をする。サル同士は仲良くするということです。
 私はその話を聞いて、人間の祖先とサルの祖先が同じであるといわれているけれど、我々のDNAの中に蓄えられた昔からの習慣の中に、人間も同じように出会いがしらに何かメッセージを送って、そのメッセージは何かというと、私はあなたの敵ではないという、味方であるというメッセージを送りあわなければならないものというか、送りあえばいいのではないかと思います。
 ですから、挨拶というのは何か。それは相手を認めたときに、私はあなたの敵ではないということを相手に知らせるためのものではないかと思います。だから、今日朝学校に来る途中とか、学校で会った生徒の諸君たち、全員挨拶をしてくれました。挨拶をするということは、人間の、人間である一番基本のところでそれは正しい事じゃないかと思います。挨拶をしなかったらサル以下だという風に考えていいのではと思います。

 ところで問題は何か。どういう挨拶をしたらいいか。学校が諸君らに君たち会ったら挨拶をしなさい。挨拶の言葉はお勧めは、「オッス」だ。そんな学校ないです。朝行ったらオッス。体育会ならいいかもしれないけど。最近の大学では「オッス」って言わなくて、「ウォッス」。僕がそういうのを聞くからかもしれないけど、そんなこと諸君らに強要したらとんでもない学校です。「学校で朝友達に会ったらオッスと言わなければいけないみたい」と、お家に帰ってお母さんに言いつけると僕のところに抗議のメールが2000通くらいくる。そんなことは言いません。「おはようございます」って朝は言うんです。お昼になって午後になって夜になって、「おはようございます」と言ったら、それはマスコミ、芸能界、水商売の世界、そういう人。だから、お昼とか午後は「おはようございます」は良くないと思います。「ごきげんよう」と言ったら、それは東京のやんごとなき人たちの間の言葉になって、学園じゃなくて院になってしまう。

 だから、挨拶にどういう言葉を使ったらいいかみんな考えてほしい。どういう挨拶をしたらいいかを考えてほしい。その結果、俺はオッスでいくというのならそれもいいけど、見つからないところでこっそりオッスと言ってもらったらいい。そこを考えてほしい。その場にふさわしい挨拶をしてほしい。Good morningでもいいし、スペイン語でもいいし、フランス語でもいいし。ただ一つそのときに分かってほしいことは、コミュニケーションというのは送り手の主体性によって成り立つのではなくて、コミュニケーションというのは受け取り手の主体性によって成りたっている。受け取り手がうれしいと思ったらそれで成立する。だから、誰かに自分は好意で言ってても嫌がられている場合もあるわけです。そこに気をつける必要があります。それが挨拶をしようということです。

 2つ目に身だしなみですけど、こんな会社があるんですよ。就職の面接に行ったら誰が第一次面接してると思います?受付のお姉さんがするんですよ。受付のお姉さんが、その人のルックスをチェックして、髪形をチェックして、服をチェックして、ペケと書いたらその人は第一次面接で落とされる。
 一目ぼれって言葉知ってます?お米の名前じゃないですよ。一目ぼれっていうのは、ぱっと見て、ああいいなと思う。人間が人間を最初に評価するときに、一目ぼれの割合、第一印象の割合、何パーセントだと思います?85~90%という研究がある。つまり、9割がルックスで初対面のときに人は人を判断する。9割、格好だけで決めないでほしい。みなさん思いませんか。でも、それが世の中の事実。だから、身だしなみというのはすごく大切です。

 じゃあ、挨拶も大切。格好も大切。形だけだなと思うでしょう。形も大切だけども、もっと大切なことがある。それは何かと言ったら「心」です。じゃあ、形と心とどっちが大切か。私は形も心も両方大切だと思います。形がだめで、ルックスめちゃくちゃで、心だけぴかぴかでいいかというと、それはちょっとねということだと思う。形がぴかぴかで、心が真っ黒だったら、それでいいのかというと、それもちょっとね、ということでしょう。だから、形も心も両方とも大切です。
 さあ、それで、両方とも大切だけれど、じゃあどちらが先か。私は形が先だと思う。形をまず作って、形から入るのが楽だと思うんですね。心を大切にするということもいいけど、心を大切にすることよりもまず形から、中学校のときから形を覚えながら、そこに心をいれていく。そういうのがいいんじゃないでしょうか。

 例えばね、今日朝起きるのつらくなかったですか。つらかったと思うんですね。起きる方法って知ってます?ものすごく簡単な起きる方法。自分で起きる方法。私がいつも眠いときに、起きれないときに実行している方法を教えます。ベッドから落ちることです。ベッドから落ちるくらいはそんなにつらくなく出来るんです。ベッドから出るということです。そうすると体が目を覚ます。布団から出る。ベッドから出る。ベッドから出てもそれでも眠たい、それは間違いなく睡眠不足だから、そういうときは寝たほうがいいかもしれない。でも、そうじゃなくて、ベッドから出たら目が覚めます。朝起きて、学校に行きたくないときあるでしょ。行ったら試験、行ったら嫌な先生、行ったら嫌な友達。それで、学校に行かなくちゃいけないときに、嫌なことがあったら、学校に行きたくないわけですね。学校に行きたくないから行かないんじゃなくて、こういう風に考えたらいいと思います。学校にとりあえず行く。行ってみて、教室に入ってみる。そうしたら、なんとかスタートするものです。勉強しなくちゃいけないけど、勉強できない。どうしたらいいか。机に座って、勉強する直前までいってみる。勉強する直前までいって、どうしても勉強したくなかったら、それはそのときでやめればいい。トイレに行けばいい。おやつでも食べればいい。先々考えて、やっぱりやめようという。最悪なのは、寝ているときに今日は眠いから今日は学校に行ったら嫌だからやめようという発想じゃなくて、とりあえず起きてみる、とりあえず学校に行ってみる、とりあえず机に座ってみる。そういう形から入る。形が気持ちを変える、形が心に気をつける、そういうことが世の中、というか日常生活では可能だということを、考えてほしいと思います。

 学期の初めに、ほとんどの人は「タイムマネジメントしろよ」という話を期待したかもしれないけど、今日の最初の話は挨拶をするということです。挨拶の言葉は諸君らに任せます。ふさわしい言葉で、それを聞いた相手が喜ぶように、それを聞いた相手が自分のことを味方だと思ってくれるような、そういう言葉で是非挨拶をして身だしなみを整えた須磨学園の生徒であるように祈ります。



2012年4月6日 学園長 西 和彦