学園長 式辞


 今日は、何の日かといえば、今日は、君たちが、君たちの保護者であるご両親に感謝をする日です。中学に行かせてもらえた。もちろん、中学は義務教育だから行って当たり前。でも、諸君らは私立の6年の一貫の学校に来ることができたわけです。だから、おうちに帰って「ありがとう」を絶対にお父さんとお母さん、その他の家族の方に言ってほしいと思います。それを、皆さんにまず、願います。

 今日は、卒業の日というよりも自分が生まれてからこれまで、教育を続けて受けることができたという感謝の日です。ここに、日の丸がかけてあります。なぜ、日の丸がかけてあるのか。それは、中学校の教育が日本という国家の義務教育だからです。日本は国の法律で、中学の教育を受けなければいけないということが国民の義務と同時に権利として決められています。

 卒業する年というのは、昔でいうと「元服」のセレモニーというか儀式があったわけです。「元服」とは、15歳くらいの男子が奈良朝以来、成人を示すものとして行われる儀式のことです。女子は、「裳着」という衣装を着ます。「元服」というのは頭に冠をつけるという意味です。人生に色々な通過儀礼があり、一番有名な一連の儀式を「冠婚葬祭」というのをみなさんも知っていると思います。最初の「冠」が「元服」「裳着」の儀式です。「婚」は「結婚」のことです。「葬」は「葬式」のことです。「祭」は「法事」のことです。この4つが人生の儀式になります。この「元服」を通り越したということは、これからは大人として扱われるということです。

 そこで、大人になる諸君らに、5つのお願いがあります。

 1つ目は、我慢をするということを是非覚えてほしいと思います。

 2つ目は、遠慮することを覚えてください。
 お友達の家に行って、おせんべいが10枚出てきた。「たくさん食べていいのよ」って言われても10枚食べてはいけません。1枚にしましょう。「晩御飯も食べていきなさい」ごちそうさまです。「泊っていきなさい」ありがとうございます。そこは「もう時間ですから、これで失礼致します」。遠慮することも覚えてほしいと思います。

 3つ目は、全ての事を1歩引いて見るということです。
 対象から離れて、全体感をもって対象を見るということをしてほしい。喧嘩をしているときでも、喧嘩をしている場所から3歩下がって喧嘩をしている自分とその相手を見てほしいと思います。

 4つ目は、先を読むということです。 
 こういうことをして、このままいったらどうなるか。それは、考えれば分かると思います。カンニングをしたらどうなるか。コンビニで万引きをしたらどうなるか。学校の窓のガラスを壊せばどうなるか。だいたい分かると思います。先を見るということを是非考えてみてほしいと思います。

 5つ目は、何か大きなことを決める時には、即断即決をしないということです。
 即断即決をするなと言っても、それでも決めないといけないことが人生では何度かあります。その時はお手洗いに行って一息ついて、冷静になって、決めて下さい。

 ところで人生には誕生日がいくつあると思いますか。誕生日は1日しかなくて、それが毎年巡ってくると言われています。しかし、私は、人生には誕生日が4つあると思います。

 1つ目は、諸君らが生まれた日です。

 2つ目は、自分に目覚めた日だと思います。自分はだれなのか。自分はどこから来たのか。自分はどこに行くのか。自分に目覚めた日が、諸君らの2つ目の誕生日です。もうすでに、自分に目覚めた諸君もいるかもしれない。そうでなかったら自分に目覚める日が近く来ると私は言いたい。その日を、その瞬間のことを大切にしてください。

 3つ目は、自分の力ではどうすることもできない大きな力がある。ある人は、それを「自然界の法則」と言い。ある人は、それを「神様」だと言う。多種多様な言い方があると思います。どれだけ悲しいことがあっても、次の日には東から太陽がのぼります。そういう大きな力が自分の周りにあることに気付いてほしいと思います。そういう力に気がついた人が3つ目の誕生日を迎えると思います。

 そういう大きな力に気付いた人が4つ目の、死ぬ時に「死」ではなく違った存在になるのではないかと思います。
 学校では、宗教のことは教えません。また、政治のことも教えません。それは、そういう世界から我々は中立でありたいという思いがあるからです。しかし、この4つの誕生日ということをこの機会に考えてほしいと思います。

 今まで諸君らは、1日、1日が楽しかったかもしれません。1日、1日が辛かったかもしれません。でも、1日、1日が終わったら次の日がくる。諸君らは今日という日に、集中する生き方をしてきたと思います。
 今日のこの式辞の最後のテーマは諸君らに時間を感じてほしいということです。須磨学園で勉強する時間は、あとどれだけあるか。それを、みんなに感じてほしい。諸君らが入学したあの日、桜が咲いていた入学式の日から、今日までの時間と同じ時間しか残っていません。この3年間は確かに長かったです。長かったけれどもあっという間だった、というのがみんなの気持ちだと思います。その時間と同じ時間が諸君らにはあります。これからの高校卒業までの時間を大切に使ってほしいと思います。
 
 卒業おめでとう。



2011年3月17日 須磨学園 学園長 西 和彦