理事長 式辞



 今年の冬は何年かぶりに雪が積もり、春の訪れを遠くに感じていましたが、校庭の白梅も咲き始め今日の日を迎えました。

 このよき日に、須磨学園創立第87回目の卒業式が挙行されるにあたり、一言お礼を申し上げます。
 ご臨席を賜りましたご来賓の皆様、本日はご多用の中、本校生の門出の日をともにお祝いくださることを厚く御礼申し上げます。
 保護者の皆様、ご子息ご息女のご卒業を心よりお祝い申し上げます。また長年にわたる本校へのご理解とご協力に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。保護者の皆様のお力がなければ本校教育は成り立ちませんでした。
 そして、たった今卒業証書を授与された443名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんの門出を心よりお祝い申し上げます。皆さんは、今日学校を背にして新しい世界に出ていらっしゃいます。 今までの春は、ともに同じ校庭の桜が咲くのを見ながら迎えた春でしたが、今年の春はそれぞれが、それぞれの場所で迎える、それぞれの春です。

 時間と場所をともにして過ごした3年の月日を振り返ると様々なことが脳裏をよぎります。悲しくて悔しくて眠れない夜をすごしたこともあったでしょう。 友達と笑い合って時間の過ぎることを忘れたこと。先生の言っていることに反発したこともあったでしょう。 将来について悩んだこと。雨の日の坂道と階段を恨んだこともあったと思います。確認テストが面倒だと思ったことも。部活の先輩が厳しかったことも。後輩が生意気だったことも。クラスメイトと喧嘩をしたことも。永遠の友情を誓い合ったことも。すべてが過ぎた日の思い出になりました。

 皆さんはとてもひたむきに頑張られました。私は皆さんを誇りに思います。そう言うと「いや、自分は頑張っていない、さぼってしまった」と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。 少なくとも、皆さんは毎日この坂道と階段を上り下りしました。TM・PMも毎週書きました。私を含め須磨学園のどれだけの大人がそれらのことが実践できているでしょうか。

 これから長い長い人生を歩んでいく皆さんに申し上げたいことがあります。それは「決して絶望しないでください」ということです。絶望して自らを傷つけてはいけません。疲れたときは休んでください。頑張りすぎなくていい。悲しいときは泣くほうがいい。素直になればいい。うれしいときは素直に喜んで感謝してください。そして、無理なことは無理だと諦めることも大切な判断です。

 当たり前のことを当たり前にする。これはとても難しいことです。余計なプライドとか不必要なコンプレックスが邪魔をするからです。余計なプライドがあるから不必要なコンプレックスもでてきます。コンプレックスに無駄に悩むのであれば、あなたの余計なプライドもないほうがいい。

 世界では、貧困のためにあえいでいる人たちがいます。災害で明日への不安を抱えて眠れない日を過ごす人たちがいます。戦争や内乱で明日に希望をもてない人たちがいます。

 幸せは人と比べることで感じられるものではありませんが、少なくともあなたたちは格段に恵まれた環境にいます。幸せかどうかはまた別の問題ですが、この恵まれた環境の中にいて幸せを感じることができないのであれば、それはとても残念なことです。

 大切なものは当たり前のようにいつもそこにあるものなので、無くなってしまわないとその大切さに気がつきません。失って初めて存在の大きさに涙するのです。例えば、あなた方のご両親。その存在のありがたさに気が付いていない人がいるならば、今日のこの機会に思い直してください。
 友人の尊さは皆さんが社会人になって初めてわかることもあります。言いたいことを言い合って自分の思いをぶつけ合った仲間。そういう関係は、仕事をするようになるとなかなか築くことができないものです。大切にしてください。

 これからの話をさせてください。皆さんの努力がマルかペケかで判断される経験をされました。これからされようとしています。自分が希望する進路を勝ち得た人たち。涙をのんだ人たちもいるでしょう。今は喜びにあふれて有頂天になっている人も、奈落の底に沈んで卒業式なんて出たくないくらい落ち込んでいる人もいるかもしれません。

 しかしながら、これから先のことはだれにも分かりません。私が学生時代に就職の人気ランキングされていた会社が今は、すでに名前も形も残っていません。逆に30年前には存在していなかった会社が発展し、今は世界のトップの企業になっています。この先の人生で、みなさんが「仕事」という選択をするときに既にあるものに拠り所を求めるか、それともこれからつくっていくことを選ぶのか。あるいは、自分自身の専門性を高めて、それを拠り所にしていくのか。どうかよく考えて決めてください。自分の人生です。誰のための人生でもない他ならぬ自分の人生です。自分自身で考えて決めてください。

 皆さんがこれから悔いのない人生を歩んでいってくださることを願い、私の言葉といたします。
 皆さん、どうぞお元気で。

 



2011年3月5日 理事長 西 泰子