学園長訓話


 こんにちは。 2学期最後の日となりました。この冬休みにどう過ごしてほしいかというお願いについてお話したいと思います。
 まず、諸君らは無人島に行くとしたら、何を持って行きますか。一つか二つ持って行っていいと言われたら、何を持って行きますか。普通海外旅行へ行く時や、東京旅行へ行く時にたくさんの荷物を持って行きます。でも、一つか二つしか持って行ってはいけないとなったら、たくさんの人が思い浮かべるのは、「本」を持って行くということだと思います。無人島に行くなら持って行きたい一冊。「百科事典」という人もいるかもしれません。自分が好きで何度も何度も読んでも「飽きない本」を持って行く人もいるかもしれません。
 私なら、無人島に持って行くものはなにか。それは、「白紙のノート」と「鉛筆」です。つまり、私は諸君らに言いたい。冬休みに本を読むということは、もちろん大切だけど、もっと大切なことは、何も書いていない紙に自分の鉛筆で、自分の字で、パソコンのワープロではなく、自分の手で自分が学んだことをもう一回紙に書いて整理をするということではないかと思います。
 特にV2とK3。高校3年生の諸君らは、受験の最終的な追い込みの時期にあたります。1月15日のセンター試験に向けて、またその次の2次試験、3次試験に向けて大変だと思います。たくさん暗記しないといけない世界史、いろいろ理解しなければならない化学、リスニングの必要がある英語。いろんな科目があります。試験の直前まで教科書を見て一生懸命の人をよく見かけます。目から入った情報を記憶しておくだけでテストが出来るのか。決してそんなことはありません。頭にある情報は、手を動かして使わないと定着しません。だから、自分がなにを勉強してきたのか、自分が最後の瞬間までなにをすればいいのかといったら、今まで覚えている知識を紙に書いてみる。たとえ選択問題であっても、選択問題の前提となる知識は、自分が紙に書かないと分かりません。覚えていることを一回紙に書くだけで、テストでそれを使う時には遥かに思い出し方が楽になります。この冬休みは、紙と鉛筆。それを、諸君らの一番身近な存在として活用して過ごしてほしいなと思います。

 もう一つお話したいことがあります。この何年間かを振り返って、効果が出ている勉強のスタイル。それは、「いいよ。いいよ。楽にやれよ。楽しく行こうぜ。」というやり方ではありません。そういうやり方をしたところは、全滅しているという結果を最近見ました。優しいということは、楽な選択です。好きにするということも楽な選択です。でも、中学校と高校の6年間を私は、あえて優しいという選択をとらないようにしようとこの年末にあたって強く決心をしました。優しい優しさが人を怠け者にする。厳しい厳しさが人を絶望に追いやる。厳しいだけがすべてではない。じゃあどうすればいいのか。優しさの中に厳しさを、厳しさの中に優しさが必要ではないかと思います。優しさと厳しさは、矛盾する概念です。矛盾が共存するということは、自然界ではありえません。熱いものと冷たいものが一緒。アイスクリームのてんぷら。皆さん食べたことありますか。アイスクリームのてんぷらはおいしくないですよ。でも、アイスクリームのてんぷらは売れています。矛盾が共存しているということに人は魅力を感じるからです。私は、矛盾の共存は人間としての最高の知恵ではないかと思います。ですから、須磨学園のチャレンジは優しい学校であると同時に、厳しい学校であるということを引き続き追及していかなければならないと思います。厳しいだけの学校、優しいだけの学校にはなりたくないというのが、私の年末の気持ちです。
 それでは、「白紙のノート」と「鉛筆」を友として有意義な冬休みを過ごしてくれることを願います。


2010年12月22日 学園長 西 和彦