学園長挨拶


 今日は創立記念の音楽会ですけれども、創立記念式が楽しいといえるのは、須磨学園ぐらいだと思います。それは、理事長のスピーチが楽しいわけでも、私のスピーチが面白いわけでもありません。今日、聞く音楽が楽しいからです。じゃあ、音楽の何を楽しむのかということですけれども、前にもお話したことがあるかと思いますが、オーケストラが楽しい。

 オーケストラのなかで一番大きな楽器は何か、という質問をすると、見ればわかるということで、コントラバスとかハープとか、そういうふうに一瞬思うと思うんですけどね。私は、オーケストラの中で一番大きな楽器は、このステージであり、このホールそのものだと思います。

 オーケストラの音楽は、二つの種類の音からなりたっています。ひとつは「直接音」。つまり楽器が発生する音楽が、直接、諸君らの耳に届く音です。今日のオーケストラの編成では、16本、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがいますけれども、そのヴァイオリンの音が重なって聞こえる。それが直接音。 もうひとつは、オーケストラの楽器のひとつひとつの音がこのホールの壁とか天井とかに反射して、耳に聞こえる。耳は、何も気をつけて聞いていないと、直接音と間接音をひとつの音というふうに受け取ってしまいますが、ぜひ、この音は直接音であると、この音は反射をしてきた間接音であるという、この2つの音を、聞き分けることは難しいかもしれませんけれど、味わって、楽しんでくれたらいいな、というふうに思います。

 今日のテーマは「父は偉大なり」ですけれども、私が父から聞いた話をしてみたいと思います。 それは、父はいつ父になって、母はいつ母になるのかということです。みなさんも知っているように、赤ちゃんはお母さんのおなかに10か月以上、います。赤ちゃんができたときからお母さんはお母さんになります。じゃあ、父はいつ父であることを認識すればいいのか。それは、子供が生まれた日に父であるということを認識する人もいる。子供が生まれた届を出しに行ったときに父という風に認識をするひともいる。でも一番強く父が父を認識するのは、子供が少し大きくなって、父親のところにお父さんと言って走ってきた時だと私の父は言いました。ですから、みなさん今日、この父というテーマの曲を聴きながらみなさんとみなさんのお父さんとの関係をもう一回思ってみてほしいです。お家へ帰ったら思いを込めて「お父さん」と言ってほしいです。 父は父と呼ばれた時に父となると私は思います。

 今日の曲の交響曲の父のハイドンとか西洋音楽の父のバッハとかいろんな人がいろんな父であるわけですけど、父と呼ばれる存在になる為にもうひとつ必要な事があると思うんです。それは、父としての価値観を作り示すという事だと思います。西洋音楽はこうなければならない。シンフォニーはこうなければならない。新しい価値観の確立と提示、これが父の大きな役割でもあると思っています。最近見たテレビの番組にベートーベンの事を扱った番組があって、そこでハイドンがベートーベンに、「君は立派な作曲家になった」と言うシーンがありました。

 皆さん方のご両親を示された価値観、そういうものをしっかりとひとりひとりの人がしっかり理解されてそれを超える存在に是非成長してほしいと願っています。


2009年11月4日 学園長 西 和彦