学園長 式辞


 
 卒業生の皆さん、 保護者、御家族の皆様、 須磨学園高等学校ご卒業、おめでとうございます。 皆さんが3年間無事で、勉学を果たし、今日、ここに卒業式を迎えることができたことを、皆で感謝し、その幸せを喜びたいと思います。

 卒業式で話をするようになって7年が経ちました。いろいろなことがありましたが、あっという間のことでした。皆さんも、今の気持ちは私と同じではないかと思います。「いろんなことがあったけど、あっという間の3年間だった」ということです。
イギリスの名門であるオックスフォード大学やケンブリッジ大学の卒業式の学長の話は30年も40年もほとんど同じ話であるということを聞いたことがあります。それを真似ている訳ではありませんが、皆さんが卒業するこの日に、どうしても言いたい、削ることの出来ない言葉があります。そういう言葉をお話ししたいと思います。

 須磨学園の一貫したテーマは:TO BE MYSELF「なりたい自分になる」です。 このテーマに皆さん、どれだけ近づけたでしょうか。 自分自身でもう一度振り返ってみてください。 ほめるべき点、反省すべき点を挙げて考えてみてください。 私は、皆さんはこの3年間、本当によく頑張ったと、みなさん一人一人を褒めたいと思います。 よくがんばりました。

 4月から新しい生活がスタートします。 高校を卒業すれば、もうりっぱに社会人として扱われます。 大学に進学する人も、社会に出て働く人も同じです。 大学に進学した時、社会に出たとき、 自分はどういう大人になりたいのでしょうか。 このことは今までしてきた勉強と同じくらい大切なことです。 皆さんが須磨学園を卒業する今日、 この3年間に皆さんが学んできた「なりたい自分になる」ということを基にして、 社会人として「なりたい自分になる」ということはどういうことなのかを、考えてみてほしいのです。

  まず、自分が何になりたいかを思い描くことから、全ては始まります。具体的になりたい自分のイメージを、心の中で作ってみて下さい。

 皆さん、夢を持ったあとにしなければならないことがあります。 それは夢に日付をいれることです。 いついつまでに、この夢を実現したいと自分の中で密かに決める決心のことです。 「日付の入った夢」のことを「人生の目標」と呼びます。 この目標を、一つ一つの小さな具体的な行動として、書き出し、日々実行してゆくことを、皆さんはこの3年をかけてタイムマネジメントとプロジェクトマネジメントとして学びました。この学んだことを、忘れず続けていって欲しいというのが、私からのお願いです。

 自分でやってみるということはとてもとても、とても大切です。料理のレシピを知っていても、それと実際の料理は違います。恋愛小説をいくら読んでも、実際の恋愛は違います。知っているということと、やってみるということは違います。たくさんやって、たくさん失敗をして、ひとはその中から真実を学んでいくのではないでしょうか。

 社会に出てすぐに、「なりたい自分」になれるとは思わないでください。
「なりたい自分になる」ためには、社会に出てから、「試練」という名の「いわゆる失敗とそこからの学習」を「たくさんした人」に、なりたい自分になるチャンスが訪れます。 皆さんがこれからの人生で出会う、うまくいかない状況や苦しい時、今のような景気の悪いとき、それが社会での学習そのものなのだということを思い出して欲しいのです。
 うまくいかない状況や苦しい状況というのは、決してだめな悪いことではありません。 決して失敗や敗北でもありません。それは、なりたい自分になるためのチャンスが自分に与えられたということなのだと理解してください。

 私は「いわゆる失敗」とは、「そうすると上手くいかないということを経験するための実験」であると思っています。失敗を失敗として認めて落ち込んでしまうことで、学べるものは何もありません。心も頭もかじかんでしまって、その失敗に学んで、その学びを生かすことが出来なくなってしまいます。みなさん、どうかこれからに人生で失敗しても、それを失敗だと思わないで、大きな実験だと思うようにして下さい。ですから4月からの「社会」という時間割に、「実験」や「失敗に学ぶ」という科目を書き込んで実践してみてください。 時間割が変わるように、うまくいかない状況や苦しい状況も変わっていきます。永遠に不況は続きません。皆さんがそれを乗り越えた時に、皆さんは「なりたい自分」に必ず近づくことが出来ているはずです。

 船は目的地に向かって進めばいいのですが、風や潮によって流されます。 そんなときにどうしたらいいのか。 それは、目標に向かっていつも進むべき方向の修正をいつも続けるということです。 なりたい自分になるために、自分という「船」をどのように舵取りしていくか、 それがとても重要なことだと思います。

 もうひとつ、大切なことがあります。それは、夢に向かって歩いてゆくときに、夢をまだ実現していない自分のことを駄目だと不満に思ってはいけないということです。幸せは不幸だと思っている人のところには来ません。幸せは、今を肯定的に考えて感謝する人のところにあります。よりよい明日、なりたい自分、もっともっと努力をと考えるときに大切なことは、それを考えている人の今はどうかということです。明日に向かって、前に向かって歩いている今を、決して否定しないで、希望と感謝の気持ちを忘れないでください。
 希望した大学に行けなくても、嘆き悲しむのではなく、ここまで育てて支えてくださったお家のひとに感謝する気持ちをもったとき、なにかからだの中で、止まっていたエンジンのスタートする音と、頑張ろうという震えがしてくるはずです。数学的に言うと人生という名前のついた時間関数の今というY切片は、必ずプラスでなければならないということです。

 若いときは色々なことを乗り越え、成し遂げることの出来るエネルギーに満ち溢れています。どうか皆さん、人生のあらゆる科目にチャレンジをして、21世紀の日本、世界において、なりたい自分になってください。 こまったことがあったなら、いつでも帰ってきて下さい。私には、お金はないけれど、失敗の経験はたくさんあります。我々は君たちに厳しい教員であったけど、卒業された今となっては、なにがあっても皆さんの味方です。だから、今日は「さよなら」という別れの日ではなく、「いってらっしゃい」という出発の日です。われわれ須磨学園は心を一つにして、皆さん一人ひとりのこれからの人生における健闘を願い、皆さん一人ひとりの自己実現と、一人ひとりが背負っている使命の遂行を願ってやみません。

 最後にもう一度、私は、3年間無事で、今日、ここに、卒業式を迎えることができたことを心から感謝いたします。 皆さん、ありがとう。そして、皆さん、おめでとう。



2009年2月28日 学園長 西 和彦