理事長 式辞



 今年の冬は例年になく寒く、厳しい冬でしたが、ようやく桜の蕾も膨らみ始めました。桜の咲く日が遠くないことを感じています。
 保護者の皆様、ご子息ご息女のご卒業、おめでとうございます。慈しみ育まれた大切な子どもさんは、この三年間で、心身ともに大きく成長され、今日のハレの日を迎えられました。保護者の皆様のお慶びはいかほどのものかと存じます。心よりお祝いを申し上げます。保護者のみなさまのご理解とご協力に支えられて、本校の指導が成立してきたことについて、学校を代表して深く感謝もうしあげます。
  また、ご多忙中の中、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様方、厚く御礼申し上げます。

 さて、共学第八期生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
  この三年間、あっという間に過ぎたような気もしますが、振り返ってみると実に色々なことがありました。その一つ一つのできごとが皆さんの記憶に刻まれ、いいことも悪いことも、これから先、みなさんの中に長い間残っていくことでしょう。うれしかったことや、楽しかったことだけでなく、つらかったことも悲しいかったことも、色々なことがあったと思います。様々な思いと風景が今みなさんの頭の中をかけめぐっていることでしょう。十五歳から十八歳の頃の経験と思い出がどれほどかけがえないものであるか、皆さんは、これから先にそのことを折に触れて実感することになるでしょう。

  皆さんは、今日から、自由になられます。学校の校則から、先生の指示から、課題から、そして坂道を登ることから解き放たれて、自由になられます。今まで我慢していたことを堰を切ったように行動に移される方もいらっしゃることと思います。髪の毛を染めて、流りの服を着て、運転免許をとって・・・。みなさんが進まれる新しいところでは、口うるさく注意をする生徒指導部の先生もいません。これからは、みなさんが自分の頭で考え自分の頭で判断し行動していくことが求められます。

  私たちの社会は、一人ひとりに「自己責任」を求めています。 進路が決まらない。それは、あなたが勉強してこなかったからでしょう。就職が決まらない。それは、あなたがさぼっていたからでしょう、というぐあいに。いつの間に、この国はこんなに冷たい国になってしまったのかと、さみしく思うこともあります。

  私たちを取り巻く今の社会のキーワードは、「自由競争」「市場原理」「弱肉強食」そして、それらの結果として生まれている「格差社会」「負け組」、「ニート」「不況」「派遣切り」・・・。この社会は、未曾有の不況にあえぎ、混乱し、悲鳴をあげています。 今までこの学校という守られた枠の中で、「大切なことは、ものではない。心だ」「大切なことは、結果ではない。プロセスだ」という教えをうけてきたわけです。 ところが学校を離れ、社会にでると、世の中、そう甘くはありません。結果は求められるし、結果の責任も問われます。
 その時初めて厳しかった先生の有難みがわかるのかもしれません。私たちの反省は、いつものことですが、「もっともっと皆さんに厳しくしておくべきだった」ということです。私たちの指導が十分でなかったことを申し訳なく思う次第です。

 「大麻を吸う大学生」、「広島の原爆死没者慰霊碑の千羽鶴に火をつける大学生」、「乱交パーティで女性に乱暴を働く大学生」そんな大学生にならないでください。 市井の善良な人たちを騙して、お金を巻き上げ懐に入れる社会人。遊ぶお金ほしさに人を手にかける若者。そんな人にならないでください。 世の中には・・・社会には矛盾と葛藤が渦巻いています。理不尽なことが起こっています。そんな世の中を、みなさんはどのように生きていらっしゃるのでしょうか。 それは、一人一人の問題であり、みなさん一人ひとりの人生観に関わることです。 つまるところ、「みなさんはどう生きるか」が今までも、そしてこれからも、問われていくのだと思います。

  心の赴くままに生きることも、自分のやりたいように生きることも楽しいことでしょうが、やりたいことを少し我慢して、自分のためだけでない人生を生きることも、いずれも「満足」の度合いにおいては、さほど大きな違いはないかもしれません。

  悔いのない人生を生きてください。悔いがない、ということは一所懸命生きることだと思います。
  暗い世の中ですが、それでもなお、私はみなさんの未来は輝いていると申し上げたい。みなさんには、広がる可能性と輝かしい未来があります。みなさんがあきらめて努力することを放棄しない限り、皆さんの未来は輝いています。

  これからの皆さんのご健闘を祈念して、私の言葉は終わります。



2009年2月28日 理事長 西 泰子