学園長挨拶


 今日は今から創立記念音楽会でオーケストラを聞きますが、オーケストラの中で、一番大切な楽器は何かと聞かれたら、みなさんはどの楽器が大切だと思いますか?私はひとつひとつの楽器がそれぞれの役割、目的があるのでひとつひとつの楽器が大切だというふうに思うのですが、それでは、オーケストラの中で一番大きな楽器はどれだと聞かれたら、どう答えますか?弦楽の大きなコントラバスとか管楽器の大きなチューバとかハープとかいろいろありますけれど、私は一番大きな楽器はオーケストラが乗っているステージと皆さんが座っているホールそのものだと思うんです。オーケストラの曲を聞くときに、ホールの音の反射というのは非常に大切なものがあります。
 オーケストラの音楽には三種類ぐらいあると思うんです。
 ひとつは客席で聞くときの音。これは最高の音がします。もうひとつは舞台の上で聞くときの音、つまり指揮者の人が指揮台に乗って聞くときの音。その時の音とみなさんの聞く音は違います。どちらが素晴らしいかっていうのは、それは反響がたくさんついた音と、直接音が多い音であって、それぞれ、違うと思うんですが、ちらがいいというのは一概にいえません。
 もうひとつ、3つめのオーケストラの音というのは、みなさんがおうちで聞く音。みなさんがアイポッドで聞く音です。ホールで聞く音とおうちで聞く音の決定的な違いというのが2つあります。ひとつは低音。ほとんどのステレオは低音が十分に出ていません。このホールにはないですが、パイプオルガンの一番下のというのは16ヘルツの音です。1秒間に16回振動がある。ピアノの一番左の音というのは27.5ヘルツです。16ヘルツや27.5ヘルツの音を演奏できるスピーカーはそんなにたくさんはありません。音楽室においてあるラッパ型の大きなスピーカーはちゃんと27.5ヘルツがでます。
 今日はこの低音の音、それから直接聞く管楽器や弦楽器の微妙なニュアンスを含んだ高音、これをホールを通じてしっかり楽しんでほしいと思います。

 大阪シンフォニカの指揮者だった牧村さんに今年も続けて指揮をお願いしました。牧村さんは指揮者で大阪シンフォニカを卒業された後も、我々が特にお願いして、毎年、1年前から日にちを決めてきていただきました。
 指揮者というのは、とてもかっこいい。みんなの前でタクトを振って。だけど指揮者がカッコいいのは、その瞬間だけであって、指揮者の仕事の結構な部分がリハーサルをしてコツコツ音をつくっていくことにあります。 かつて大平正芳さんという人が日本の総理大臣にいました。その大平さんが総理大臣になったとき、「指揮者のような総理大臣になりたい。」と言われました。諸君らでいえば、指揮者のような生徒会長になりたい、指揮者のような学級委員長になりたい、ということだと思いますが、そんな話を指揮者の小澤征爾さん、大変有名な方ですが、私が会社の社長をやっていたとき、「私は指揮者のような社長になりたい」といったら、「西君、それはだめだよ。指揮者のような社長では意味がない。」「それはなぜですか?」と聞きましたら、「指揮者には人事権がない。だから悪い音を出しているプレイヤーがいても退場ということができない。」だから小澤さんは僕に「音楽監督のような指揮者になりたい、といった方がいいよ」と言ってくださいました。

 須磨学園は創立86年を迎えて理事長と私は、毎日、指揮者のような音楽監督のような仕事を学校でしています。演奏する人が新しく入ってくる時も、演奏する人が辞めていくこともありますが、人の命は有限であるけれど、人が入れ替わることによって組織は永遠になります。なりたいと思います。オーケストラも永遠であったらいいなと思います。

ということで、少々長くなりましたが、今日はホールでしか聞くことのできないオーケストラの音を最高の指揮者と最高のオーケストラで聞いていただければ嬉しいと思います。

2008年11月4日
須磨学園 学園長 西 和彦