理事長 式辞


 須磨学園高等学校六期生・三百七十六名のみなさん、 ご卒業おめでとうございます。 保護者の皆様、 この日を心待ちにしてこられたことと存じます。 立派に成長されたご子息・ご子女の門出を心よりお慶び申し上げます。 本日ご臨席を賜りましたご来賓の皆様、 皆様の日ごろからのご支援とご協力に感謝し、厚く御礼を申し上げます。

 卒業生のみなさん、 みなさんの三年間はどういうものだったでしょうか。 振り返ってみて、「よかった」と思える高校時代を過ごされたかたも 「まだまだがんばれた」と思っておられるかたも思いは様々でしょう。 共通して言えることは 皆さんは、雨の日も風の日も、この坂道を登り、階段を上がって、登校してこられたということ。 それだけでも十分にすばらしいことです。 われわれ教職員の半数以上が、坂道を登ることを放棄していることからすれば、 この、日々の積み重ねがみなさんにどれほどの力をもたらしているか、 遠からず実感されると思います。

 さらに、みなさんは、毎週TM・PMを書き、確認テストなるものを受け、山積みされた課題を黙々とこなしてこられました。 これほど努力を積み重ねてきた高校生は決して多くはいません。 みなさんを慈しみ大切に育ててこられたご家族は、誰よりもみなさんの成長を喜んでおられることでしょう。 ここで、この場をおかりして、第三学年の先生方のご健闘をたたえたいと思います。 自らは血を吐きながらも、皆さんを叱咤激励しながら、ひっぱってこられた後藤秀雄学年部長を筆頭とした第三学年の先生方の情熱に、敬意を表します。 この先生方の熱い情熱が、みなさんの高校生活と進路に大きな影響を与えたことを確信しています。

 さて、皆さん、 今日をもって皆さんは学校という枠組みから解き放たれ、先生の指示からも、校則からも自由になられます。 これからは、みなさんに「あれをしなさい、これをしなさい」と指示をする人も、 「あれをしてはいけない、これをしてはいけない」と、禁止をする人も、 いなくなります(ご家族以外では)。 これから、皆さんは、自分の頭で考え、自分で決めて自分で行動することが求められます。 大学や社会は、手取り足取りみなさんに何かを教えてくれるところではありません。 自らすすんで学ぶ姿勢をもたない限り、「学ぶ」ことは難しくなります。

 これからの人生において、みなさんはゼロか一かが問われる経験を何度かされます。 ○か、×かが問われます。 オール・オア・ナッシングですから、三角という中間がありません。 (しかし、妙なことです。どこで、線が引かれるのでしょうか。) みなさんは日常不断に意識されることなく、この制度の中で過ごしてこられました。 受験という制度、学歴というラベルがまだまだ意味をもつこの社会の中で、 これからいかに自己を実現していらっしゃるのか。 これが、みなさんのこれからの課題といえるでしょう。 学校制度の中で意味があった学歴が、職業の世界でも、能力の証明になりました。 学歴のヒエラルキーが、そのまま、社会に持ち込まれています。 「今に至るまで、何をしてきたか」 「どこそこ大学以上の学歴をもっているか」 「どういう資格をもっているか」 「どういう特技があるか」 が問われます。 条件を満たしていない場合は、門前払いに合うこともあります。 では、条件を満たしていない人はどうなるのでしょうか。

 格差社会、勝ち組・負け組といった二極分化してきたこの現代の社会において、 勝ち組と負け組みの格差が、いやおうなく拡大するなかで、 「努力は報われない」と感じた人たちから希望が失われていきます。 「子どもにどのような学歴を与えるか」、これは保護者の経済状況に負うところが大きい と言われています。 その点において、みなさんは、ご両親に・・・お父さんに、お母さんに・・・、 感謝しなければならないでしょう。

 そもそも、人生に「勝ち負け」があることがおかしなことですが、 もしあるとするならば、どういうことでしょうか。 お金をたくさん稼いだということでしょうか。 (そういう目的をもった人も否定はしませんが・・・。) それは、自分が望む自分自身になれたか・どうかだと私は考えます。そして、その自分自身は、社会の中でどういう役割を担っていくのか、そして自分以外の人たちとどのように関わっていくのかが問われていきます。

 ご存知のように、私たちが生きていくこの社会は矛盾に満ちています。 実際、私たち自身が矛盾の塊だと言われています。 皆さんが社会に出られて、不公平に憤ることがこれから山ほどあるでしょう。 理不尽なことに怒りを覚えることでしょう。 その時、どうするのか、 ぶち切れするのか、 逃げるのか、 我慢するのか、 立ち向かうのか、 様々な選択肢がみなさんにつきつけられます。 心の求めるまま生きていくことは、とても心地のよいことでありますが、 同時にいかに難しいことであるか、皆さんは身をもって経験されるでしょう。

 困難なときほど、その人の真価が問われます。 困難に直面したときほど、その人の本質が垣間見えます。 みなさんには、 順風満帆なときにうまくやれる人よりも、 困難に遭遇したときに、負けない人であっていただきたい、 とわたくしは願っております。 そして、希望をもって、努力を続けていっていただきたい。

 心理学者によりますと、 希望という感情は、努力が報われるという見通しがあるときに生まれる 絶望は、努力してもしなくても、同じとしか思えないときに生じる ということのようです。 「努力」を、「苦労すること」、「つらさに耐えること」と言い換えても あてはまると思います。 では、どうすれば希望が持てるのか。報われない努力もあるわけですから。 それは、「信じること」だと私は思います。自分を信じ、努力を積み重ねることです。 みなさんは、そのことをまさにこの高校時代に実践してこられました。 どうか、自信をもってください。 困難に立ち向かい、変革を畏れず、果敢に挑戦し続ける人になっていただきたい。

 みなさんのこれからのご活躍を祈念し、 これで、わたくしの言葉を終わらせていただきます。



2007年2月17日 理事長 西泰子