学園長挨拶

 84周年にあたって、一言、ご挨拶申し上げます。

 伝統を守るということは大切なことですけれども、イギリスの生物学者であったチャールズ・ダーウインが、「種の起源」という本の中で言っていることが大切です。「生き残る種とは、強い種でもなく、多い種でもなく、変化に対応することが出来た種である。」というふうに言っています。この変化に変われなかった恐竜は今から6500万年前に隕石の落下による天候不順によって、食べ物がなくなって、絶滅してしまいました。

 須磨学園は今から84年前の大正11年に創立されました。当時の名前は「須磨裁縫女学校」でした。それから「須磨女子高等学校」を経て、「須磨学園高等学校・中学校」になりました。
 その時代その時代の求めるものを、学校として素直に提供してき続けたことではなかったかと思い、それぞれの時代を支えてこられた皆さんのご努力に心から感謝申し上げます。


 さて、この記念コンサートに、最近はいつもオーケストラを聴くということをしていますが、ピアノやバイオリンやフルートなどの独奏もあるのに、なぜオーケストラなのかということについて、私の思いをお話したいと思います。

 さきほど理事長も申しておりましたが、皆さんも社会に出てからは、比較的小さな音楽会は聞く機会がたくさんあると思います。もちろんオーケストラも一年に数回聴きに行くことがあるでしょう。ニューイヤーコンサートを、年末の「第九」を。でも、オーケストラの何をどう演奏しているのかという説明の入ったざっくばらんなコンサートはなかなかありません。結婚式に最近は弦楽四重奏ぐらいが出てくることが多くなりました。でもオーケストラが出てくる結婚式はなかなかありません。

 須磨学園が皆さんに学んでほしいことのなかに、リーダーシップとチームワークということがあります。オーケストラは「見えるリーダーシップとチームワーク」であり、「聞くリーダーシップとチームワーク」であると思います。
 今から30年ぐらい前、1978年のことですが、大平正芳さんという総理大臣がおられて、音楽が大変好きな方でした。総理大臣になられたときの新聞に「私はオーケストラの指揮者のような、総理大臣になりたい」とお話になっていらして、僕はそれを読んで、いいなあと思いました。そのあと会社の社長になったときに「指揮者のような社長になりたい」と、新聞のインタビューで話したことがありました。
 あるとき、飛行機の中で指揮者の小沢征爾さんとたまたま出会って、そのことを話していると、小沢さんは「だめだめ、指揮者だけじゃだめ。オーケストラの団員はいうことを聞かないのよ。指揮者には団員の人事権はないのだよ。下手な演奏をしている団員がいても、出て行けとはいえないわけだ。人事権は音楽監督にあるので、君は「音楽監督兼指揮者になりたい」というといいね。僕はボストンシンフォニーの音楽監督と指揮者をやっています。」と私に話してくださったことを覚えています。
 今日、オーケストラを見ながら、リーダーシップとチームワークについて考えてみてほしいと思います。

 今日の音楽を君達はどこで聞きますか。もちろん音は耳で聞くわけですが、今日は音楽を頭だけでなく、身体全体で聴いてみてほしいのです。身体全体で聴こうと思った瞬間に、おなかや手の先や髪の毛の先が音を感じるようになります。説明は頭で理解するものですが、それと同時に感じるということをしてほしいのです。
 感じるということと、考えるということのバランスが今日の大きなテーマのひとつです。



2006年11月6日 学園長 西和彦