学園長式辞

西 和彦

卒業生の皆さん、
保護者の皆様、
須磨学園高等学校ご卒業おめでとうございます。

皆さんが3年間無事で、勉学を果たし、今日、ここに卒業式を迎えることができたことを、この壇上の学年団はもちろんのこと学校法人須磨学園の役員、教職員全員で喜びたいと思います。

TO BE MYSELF「なりたい自分になる」

須磨学園の一貫したテーマであるTO BE MYSELF「なりたい自分になる」
このテーマに皆さん、どれだけ近づけたでしょうか。
自分自身でもう一度振り返ってみてください。
ほめるべき点、反省すべき点を挙げて考えてみてください。

社会人としてのなりたい自分とは

4月から新しい生活がスタートします。
高校を卒業すれば、もうりっぱに社会人として扱われます。
大学に進学する人も、社会に出て働く人も同じです。
これから大学に進学した時、社会に出たとき、
自分はどういう風になりたいのでしょうか。
このことは今までしてきた勉強と同じくらい大切なことです。
皆さんが須磨学園を卒業する今日、
この3年間に皆さんが学んできた「なりたい自分になる」ということを基にして、
社会人として「なりたい自分になる」ということはどういうことなのかを、考えてみてほしいのです。

目標の設定と不断の修正

なりたい自分になるために、自分という船をどのように舵取りしていくか、
それがとても重要なことだと思います。
船は目的地に向かって進めばいいのですが、風や潮によって流されます。
そんなときにどうしたらいいのか。
それは、目標に向かっていつも進むべき方向の修正をいつも続けるということです。

健康の維持

燃料が無くなるときもあります。エンジンが故障するときもあります。
働くとは、人が動くと書きます。体が動かないと働けません。
だから健康の管理も大切です。

人生は11年周期

私はこの2月にとうとう50歳になりました。
振り返ってみると、私のこれまでの人生はいいことがあったり、大変なことがあったり、病気になったりのドタバタの50年間でした。

実は、人生の大きな変化は10年ごとではなく、11年ごとに訪れるような気がします。つまり、人生の転機は10、20、30、40歳ではなく11、22、33、44、55、66、77歳のときにやってくると思うようになりました。

11歳の時、私は初めて怒りを我慢するということに目覚めました。喧嘩ばっかりの腕白坊主だった僕にとっては大きな決心でした。小さな嫌嘩をしなくなったのです。とたんに学級委員長になりました。

22歳の時、早稲田大学の理工学部に在学していましたが、アスキーという会社を友達と始めました。アメリカの会社マイクロソフトと提携し、私はマイクロソフトの役員であり、そして副社長になりました。でもしかし、マイクロソフトの当時の社長であったビルゲイツと喧嘩して、仕事をみんな辞めて、失意のうちに日本に帰って来ました。29歳でした。

33歳の時、アスキーの社長になりました。この会社は株式を公開し、社員は1500人、売り上げは500億円にまで大きくなりました。でもしかし、アスキーは97年に投資をしてもらった会社との関係が悪くなり、私は社長を辞めることになりました。41歳でした。

44歳の時、今から六年前、長年の夢であった博士号の学位を取り、アメリカのマサチューセッツ工科大学の客員教授に招聘され、同時に自分が生まれ育った須磨学園に戻ってきました。ずっと絶交していたビルゲイツとは仲直りをしました。

夢を持つなら、大きな夢を

思い返してみると、人生の大きなピンチの後に必ず大きな飛躍や展開がありました。
自分が夢見た人生の目標は、いつも自分の夢よりも大きな形で実現して来ています。
人の人生の限界はその人の持つ夢の限界を超えることは難しいと思います。
出来ると信じるから実現するのであって、出来ないとおもっていると何も出来ません。
だから皆さん、夢を持つならなるべく大きい夢を持って、それを毎日できるだけ大きく拡大修正していった方がいいと思うのです。

日付を入れると夢は目標になる

皆さん、夢を持ったあとにしなければならないことがあります。
それは夢に日付をいれることです。
いついつまでに、この夢を実現したいと自分の中で密かに決めることです。
「日付の入った夢」のことを「目標」と呼びます。

試練はチャンスだ

社会に出てすぐに、「なりたい自分」になれるとは思わないでください。
「なりたい自分になる」ためには、社会に出てから、「試練」という名の「学習」を「たくさんした人」に、なりたい自分になるチャンスが訪れます。
ですから「社会」という時間割に、「試練」や「自由」という科目を書き入れてみてください。
皆さんがこれからの人生で出会う、うまくいかない状況や苦しい時、それが社会での学習そのものなのだということを思い出して欲しいのです。
うまくいかない状況や苦しい状況というのは、決してだめな悪いことではありません。
決して失敗や敗北でもありません。
それは、なりたい自分になるためのチャンスが自分に与えられたということなのだと理解してください。
私の44歳からの学校で教えるという人生には、いまのところ、「でもしかし・・」という挫折はまだありません。でも、55歳に向けて挫折は必ずあるでしょう。
こんなジェットコースターのような人生を半世紀生きていると、実は挫折の最中に「この苦しさを乗り越えると、その向こうにどんないいことがあるのだろう」とすら思うようになりました。
大変なときでも、実は醒めている自分にやっとなることができました。
目の前の、うまくいかない状況や苦しい状況は永遠に続くことはありません。
時間割が変わるように、うまくいかない状況や苦しい状況も変わっていきます。
皆さんがそれを乗り越えた時に、皆さんは「なりたい自分」に必ず近づくことが出来ているはずです。

人生は試練ばかりではない楽しさの追求も大切

人生は試練ばかりではありません。
「なりたい自分」に近づくことが出来た皆さんのこれからの時間割に、オリジナリティーに溢れた「自由な」楽しい科目も作ってみてください。
たとえば、就職する人は「給料支給」も科目に入れてみてはいかがでしょうか。自分ががんばった結果として収入を得るという科目は素敵なことだと思います。私は食べることが好きですが、家族や気のあった友達と「おいしいものを食べに行く」という科目も楽しいですね。

自己実現の次は社会との関係性の樹立

なりたい自分になったときに、次に考えなければならないことがあります。
それは、その自分と社会との関係です。
人は一人では生きることは出来ません。
なりたい自分は、一人ではなれません。
ホリエモンはなりたい自分にはなりましたが、自分と社会との関係を何か勘違いしてしまったのです。
自分と社会の関係を考えるときに、忘れて欲しくないことがあります。
それは、自分は如何にして、自分を生かして、社会の役に立つのかという気持ちです。
自分の専門を通じて社会に貢献するということが、皆さんに与えられた次の課題です。

須磨学園の願いと祈り

若いときは色々なことを乗り越え、成し遂げることの出来るエネルギーに満ち溢れています。
どうか皆さん、人生のあらゆる科目にチャレンジをして、21世紀の日本、世界において、なりたい自分になってください。
須磨学園の教員と職員は心を一つにして、皆さん一人一人のこれからの健闘を願い、皆さん一人一人の自己実現をいつも祈っています。

最後にもう一度、私は、3年間無事で、今日、ここに卒業式を迎えることができたことを心から感謝いたします。
皆さん、ありがとう。そして、皆さん、おめでとう。

以上