理事長式辞
西 泰子

この冬は例年になく、寒さが厳しい冬でした。
このまま、冬がずっと続いていくのではないかと思うような寒さでした。

ところが、先週の土曜日に「春一番」が吹き、みなさんが須磨学園を卒業していかれる日がまもなくやってくることをそれまでは頭ではわかっていましたが、実感いたしました。
そして、今日のこの日を迎えたわけです。

ただ今、平成15年度須磨学園高等学校の課程を修了した共学三期生443名に対し学園長より卒業証書を授与いたしました。

ご来賓の皆様には、公私ともにご多用のところ、ご臨席を賜り、厚く御礼申し上げます。

保護者の皆様、
ご子息、ご子女のご卒業を心からお祝い申し上げます。
晴れの日を迎えたご子息ご子女のすこやかな成長に思いを馳せられてそのお慶びはいかばかりかとお祝い申し上げます。

そして、共学三期生のみなさん、
21世紀に新たな人生のスタートを切るみなさん、
ご卒業おめでとうございます。

それぞれの新しい世界に出ていくみなさんが、ここで過ごされた三年間をふり返られて様々な思いが心を行き来しておられることでしょう。

この三年間で、なりたい自分は見つかりましたか。
そして、その「なりたい自分」になれましたか。
自分自身が納得のいく三年間を過ごされましたか。

これから、あるいは何年かたって、みなさんがでていかれる21世紀のはじめの日本の社会は、政治、経済、そして教育・・・学校の在り方が、また、個々人の生き方すべてが問い直され、つくりなおされている「再編」の時期にあります。
また、ご存知のように世界のどこかでは争いがおこり、血が流れております。

そのように、私たちを取り巻く環境や情勢は、不安も大きいですが、見方によれば、「おもしろい」時期にさしかかっているともいえます。
今まであった価値観や規範が問い直され、新しい何かを私たちの頭で考えつくっていかなければなりません。
そして、みなさんは、この激動の時期に青年期を過ごしていかれます。
いつの時代も求められているのは、若い人たちの力だと思います。
どうか、がんばってください。

学校の入学時に、また就職するときに求められる力は、みなさんの持つ能力の極めて限られた部分であり、それはある意味で特殊な形態であるとも言えます。

皆さんの可能性はまだ未発見、未開拓の状態にあるともいえます。
社会にでて最大限に発揮されるものかもしれません。

ですから、これからの生活は、自分に何ができるのかを見いだすために用意されていると言っても過言ではありません。

ここでもう一度みなさんに考えていただきたいのは、「なりたい自分になって、そして、それからどうするのか。
自分はどのように自分以外の人と、あるいは社会と関わっていくのか」ということです。

現代は多様性の時代と言われています。
それは、人それぞれのあり方や様々な価値観を認める時代だということです。
ですが、それぞれのあり方を認めることは、「何でもあり。何をしてもいい」ということではありません。

大切なことは、この矛盾と葛藤と雑音がうずまく世の中を、みなさんが「どのように生きていくのか」ということだと思います。
v みなさん、ひとりひとりの「生」の異なった独自のありかたと、深く共通するありかたをこれからも考えながら、実践していってください。

それでは最後に
先生の指示や学校の規則から解放された今日の日のみなさんに、餞の言葉として、思い出深い詩の一節を送らせていただき私の挨拶は終わります。

わたしの生徒の日のノートのうえに
わたしの机のうえに 樹木のうえに
砂のうえに 雪のうえに
わたしは書く
あなたの名を

よみおえたすべてのページのうえに
空白なすべてのページのうえに
石 血 紙 あるいは灰のうえに
わたしは書く
あなたに名を

調和されたすべての肉体のうえに
われわれの友たちの額のうえに
さしだされるひとつひとつの手のうえに
わたしは書く
あなたの名を

不意打ちの窓ガラスのうえに
注意ぶかいクチビルのうえに
まさしく沈黙のはるかうえに
わたしは書く 
あなたの名を

そして ひとつの言葉のちからによって
わたしは わたしの生をふたたびはじめる
わたしは生まれた 
あなたを知るために
あなたの名をよぶために
自由と!
ポール・エリュアール 『自由』より